仙台藩初代藩主・伊達政宗公によって慶長14年(1609)に建立された瑞巌寺本堂は、禅寺らしい質素な外観ですが、内部は桃山建築・美術の特徴である、絢爛豪華な彫刻や絵画で彩られています。 特に襖絵や壁貼付絵・板戸絵等は211面(指定161面、50面)あり、国重要文化財に指定されています。現在、これら障壁画群の原本は、墨絵の間を除いて、全て宝物館の専用収蔵庫で保存管理し、本堂は、修理事業と並行して制作した精巧な復元模写を建て込み、描かれた当初の美しい空間を再現しています。
障壁画は、建物の完成から11年後の元和6~8年(1620~22)にかけて制作され、令和4年(2022)の今年は完成から400年を迎えます。政宗公に召し出され、仙台藩最初のお抱え絵師とされる狩野左京を中心に、瑞巌寺の作画のためだけに招聘された長谷川等胤、吉備幸益の三流派が、部屋を分担して描いています。
本展覧会では、保存のため普段は見ることの出来ない障壁画の原本と、本堂にある復元模写の一部を展示スペースのゆるす限り出陳いたします。色褪せてもなお精緻な技法を今に伝える原本と、その技法を受け継いだ現代の絵師の手による模写絵の両方を、どうぞごゆっくりご観覧下さい。
原本:元和6~8年(1620~22)
復元模写:昭和60年(1985)~平成9年(1997)
※表は横にスクロールします
展示室1 | |||
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作品名称 | 筆者名 | 数量 | 時代、他 |
伊達政宗像 | 不明/雲居希膺賛 | 1幅 | 江戸時代前期 |
伊達政宗和歌詠草 | 伊達政宗 | 1幅 | 慶長14年(1609) |
伊達政宗書状 伊達宗利宛 | 伊達政宗 | 1幅 | 江戸時代前期 |
竪額「上堂」(裏面:画工交名) | 天嶺性空 | 1面 | 享保15年(1730) |
障壁画 牡丹唐獅子図 | 狩野左京 | 3面 | 仏間須弥壇格狭間・貼付絵 |
障壁画 松孔雀図 | 狩野左京 | 6面 | 室中(孔雀の間)・襖 |
障壁画 花木図 | 長谷川等胤 | 1面 | 上段の間・襖 |
障壁画 花木図(復元模写) | 有限会社 六法美術 | 1面 | 同上・復元模写 |
展示室2 | |||
作品名称 | 筆者名 | 数量 | 時代、他 |
障壁画 文王呂尚図 | 長谷川等胤 | 4面 | 文王の間・襖 |
障壁画 鷙鳥図(槲に鷹図) | 左京弟子 九郎太 | 6面 | 鷹の間・襖 |
障壁画 墨画 龍虎図 | 吉備幸益 | 6面 | 墨絵の間・舞良戸 |
障壁画 松桜図 | 左京弟子合作 | 1面 | 松の間・襖 |
障壁画 松桜図(復元模写) | 有限会社 六法美術 | 1面 | 同上・復元模写 |
障壁画 菊図 | 左京弟子合作 | 1面 | 菊の間・舞良戸 |
障壁画 菊図(復元模写) | 有限会社 六法美術 | 1面 | 同上・復元模写 |
障壁画 竹に虎図 | 狩野左京 | 1面 | 板戸絵 |
障壁画 藤図 | 狩野左京 | 1面 | 板戸絵 |
障壁画 羅漢図 | 長谷川等胤 | 1面 | 板戸絵 |
障壁画 飛天迦陵頻伽図 | 長谷川等胤 | 2面 | 上々段の間・天袋小襖 |
この襖絵で飾られる室中(孔雀の間)は、宗教儀式が営まれる本堂の中心部です。
華やかな彫刻や絵画で装飾し、この部屋が「此の世の浄土」を具現化した空間であることを示しています。
襖絵は金地に松の古木を配し、四季折々の草花が咲き乱れる中、のどかに遊ぶ瑞鳥の孔雀や金鶏を大らかな筆致で描いています。
筆者狩野左京は、20歳代で畿内より政宗公に召し出されたのち、大崎八幡宮・仙台城大広間・若林城など仙台藩初期の各事業において障壁画を手がけ、仙台藩最初のお抱え絵師とされています。
室中に向かって右側に位置する鷹の間は、別名「礼の間」とも呼ばれ、伊達家重臣の控えの間です。
襖絵は狩野左京の弟子九郎太による「鷙鳥図(しちょうず)」で、鷙鳥は鷲や鷹など猛禽類のことを言い、伊達武士の勇猛さを表しています。 槲(かしわ)の木は新しい葉が芽を出すまで古い葉を落とさないという性質から、子孫が断えず続いていくようにという願いも込められています。
室中に向かって左側に位置する文王の間は、伊達家一門(親戚)の控えの間で、藩主との対面の場という役割を持つ部屋です。
襖絵「文王呂尚図」は、理想の国家といわれる古代中国周王朝の基礎を築いた文王と名補臣太公望呂尚の出会い、国都洛陽の繁栄、狩猟場面を、装飾的かつ微細な筆致で描いています。
筆者長谷川等胤は、この部屋と奥に位置する上々段の間・上段の間の障壁画を描くため、政宗公に特別に招かれた絵師です。
狩野派と共に桃山画壇を担った長谷川等伯の高弟とされますが、詳しい経歴は不明です。
天皇・皇族をお迎えするために造られたと伝わっている上々段の間、藩主御成の間である上段の間の襖や壁貼付絵は、梅や竹、椿、牡丹、百合など華麗な花木図で彩られています。
右側の新しい襖は、保存修理と並行して制作された復元模写(有限会社 六法美術制作)で、現在本堂に建て込まれているものです。木の根元を見比べると、原本は長い年月の間に加筆や修正が加えられている事が良くわかります。
本堂の表側の部屋が極彩色の金碧障壁画であるのに対し、住職の応接室とされる墨絵の間は、室名の通り水墨で構成されています。「猪頭(ちょとう)和尚図」、「寒山拾得(かんざんじっとく)図」、「龍虎図」はいずれも禅から発した画題です。この部屋は復元模写を行っておらず、本堂には原本が建て込まれています。
筆者吉備幸益は画風から戦国時代の画僧・雪村の流れをくむと考えられてきましたが、今もなお謎の絵師です。
日時 | 【終了しました】 13:30~15:30(13:00開場) |
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会場 | 大書院(椅子席) |
受付場所 | 本堂売店付近 |
料金 | 拝観料のみ 大人700円 小・中学生400円 |
定員 | 50名 |
第一部 | 講演 「瑞巌寺の障壁画と 伊達政宗の芍薬愛好」 講師:樋口 智之氏 (仙台市博物館副館長) |
第二部 | 対談 「瑞巌寺障壁画・復元模写 ~次代へつなぐ線と色」 樋口 智之氏(仙台市博物館副館長) 富澤 千砂子氏 (有限会社 六法美術代表) 千坂 成也師(瑞巌寺執事長) 堀野 宗俊師(瑞巌寺宝物館顧問) |